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この記事の監修助産師
河井 恵美 先生
看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等に勤務、25年以上助産師を務める。
青年海外協力隊でアフリカに赴任、国際保健医療を学ぶために大学院に進学、修了。
お母さん方へのアドバイスを充実させたいと思い、保育士資格も取得。
現在、シンガポールに住み2人の子どもを育てつつ、現地の産婦人科に勤務して日本人の妊産婦さん方に携わる。
インターネットにてエミリオット助産院を開設中。
妊娠確率と妊娠のための基礎知識
妊娠するためには、卵子と精子が出会い受精し着床しなければなりません。子宮内膜に着床したことをもって「妊娠」となります。
まずは、女性の月経(以下、生理とする)周期についてお話します。
正常な生理周期は、25~38日です。(参考文献1)
これは、生理が始まってから次の生理が始まるまでの期間です。
脳下垂体という脳の一部からホルモンが分泌されて、卵巣や子宮に働きかけて卵胞が育ち排卵を促します。排卵してから次の生理まで約2週間、生理が始まってから排卵までの日数には個人差があります。
排卵後よりは排卵前が受精しやすい時期だとされています。
精子は1回の射精で何億個も放出されます。でも、受精する卵管膨大部にたどり着けるのは、わずか200個ほどです。過酷な競争を経て受精することから、精子の受精能力は卵子よりも長く、射精後2〜5日間ほどといわれています。
一方、卵子は排卵後に卵管に取り込まれ、卵管膨大部で1個の精子と受精します。卵子の寿命は排卵後24時間ほどですが、受精能力がある時間はこれよりも短く、約10時間ともいわれているのです。
これらのことから、卵子が卵管に取り込まれたときには、精子が卵管内で卵子を待っている状態が理想的だと考えられています。精子の方が寿命が長いため、待っていられる時間が長いのです。
妊娠のためには、排卵1~2日前の性交が妊娠の確率が高いとされています。とはいっても、排卵を確実に特定するのは難しく、排卵がずれることも考えられます。
排卵推定日前後での性交で妊娠する可能性がありますが、「排卵日=一番妊娠しやすい日」ではないのです。
妊娠確率と年齢
年齢によって、妊娠の確率、流産の確率が違います。一般的に、年齢が上がるほど妊娠しにくく、流産の確率が高いです。
2002年の内閣府の出した「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」では、「年齢別にみる排卵と妊娠率の関係」が示されています。
そのデータによると、男女同じ年齢の場合の妊娠の確率は、20歳代前半まではもっとも妊娠率が高い日でも50%、20歳代後半〜30歳代前半は40%、30歳代後半では30%です。
男性が女性よりも5歳年上の場合は、それぞれの年代で妊娠の確率は低くなる傾向があります。20歳代前半まで45%、20歳代後半〜30歳代前半は40%、30歳代後半20%以下です。(参考文献2)
年代 | 男女同じ年齢の場合 | 男性が女性よりも5歳年上の場合 |
20歳代前半まで | 50% | 45% |
20歳代後半〜30歳代前半 | 40% | 40% |
30歳代後半 | 30% | 20%以下 |
妊娠すると必ず出産できるかというと、そうではありません。流産の可能性もあることを知っておく必要があります。
虎の門病院のデータに女性の年齢による流産率がありますので、表にまとめました。(参考文献3)
25〜34歳までの流産率は比較的低いですが、35歳以上になると明らかに高く、40歳以上では41.3%と半分近くが流産となってしまうというデータが出ています。
年齢 | 流産率 |
24歳以下 | 16.7% |
25〜29歳 | 11.0% |
30〜34歳 | 10.0% |
35〜39歳 | 20.7% |
40歳以上 | 41.3% |
妊娠しても流産する可能性もあるため、出産までを視野に入れると「赤ちゃんに会える確率」は上記の妊娠率よりも下がるといえます。
妊娠確率をあげる排卵日予測
妊娠の確率をどうしたら上げられるのか、排卵日の予測と日常の生活の視点からお話します。
妊娠の確率を上げるためには、まず排卵日を予測することが大切です。自分で排卵日を予測する方法として基礎体温法があります。基礎体温は、朝目覚めた直後、身体を動かす前に基礎体温計を舌の下に入れて計る方法です。
基礎体温を測ってグラフにすると、正常な人であれば低温期と高温期に分かれます(二相性)。低温期が終わる頃にガクンと体温が下がることがあります。その後、高温期に移るのですが、排卵が起こるのは、低温期からから高温期にかけてが目安です。
基礎体温で正確な排卵の日や時間を特定することはできません。でも、3ヶ月ほど基礎体温を測ってグラフをつけると、自分の基礎体温のリズムをある程度つかむことができるでしょう。
ただし、排卵しないまま黄体化する黄体化未破裂(非破裂)卵胞という現象があります。これは基礎体温ではわからないため、基礎体温が二相性になっているからといって、確実に排卵しているとはいえないのです。
基礎体温に合わせて、排卵検査薬を使用する方法もあります。尿や唾液から排卵前にたくさん分泌される黄体化ホルモン(LH)の濃度やLHとエストロゲンをの2種類を調べるタイプのものがあります。
超音波検査では、卵胞がどれくらい育っているかを測ることができます。ある程度の大きさになると排卵することがわかっているため、ホルモン検査と共に、排卵を予測するために医療機関でよく行われている方法です。
妊娠の確率を上げたい場合、体調を整えて健康な身体を作ることから取り組むと良いでしょう。一般的に健康によい生活とは、規則正しい睡眠や食事、必要な栄養を摂り、適度な運動で身体を動かすことです。また、喫煙はせず、お酒は適量にして飲みすぎないことです。
このような生活は、身体の機能やホルモンの分泌を正常に保ち、妊娠するために必要な身体の働きを支えてくれるでしょう。疲労やストレスが過度な場合、生理不順となりやすく、排卵にも影響します。(参考文献4)
妊娠確率と生理前後
生理の期間は、妊娠しない安全日だと考える方も多いかもしれませんが、100%妊娠しないとは限りません。一般的に、生理周期は25〜38日間ほどと言われています。生理が始まってから排卵までの期間は個人差があります。でも、排卵から次の生理までは約2週間と決まっています。生理周期の違いは、生理から排卵までの期間の違いです。
生理が始まってから排卵までの期間が短い方がいます。そう考えると、生理の初日は妊娠しづらい日かもしれませんが、生理の終わり頃は排卵に近くなり、精子の寿命が長い場合、妊娠する可能性があります。
また、普段の生理周期が決まっていても、次の生理が来るまでは、その時の排卵がいつ頃だったのかはわかりません。生理が不順だとなおさらわかりにくいものです。
排卵や生理周期は、ストレスや体調などで変わるものです。そのことを考慮すると「いつ排卵するのか」というのは、超音波検査でモニタリングしていないと、推測するのは難しいのです。モニタリングしていても、予測よりも早く排卵していて、次に診たときにはもう排卵後の状態だったということもあります。
これらのことから、妊娠を避けるための安全な日はないと考えた方が良いでしょう。
妊娠したくない人は避妊方法を2つ以上使用し、妊娠したい人は排卵日付近に関係なく性交すると妊娠の確率は上がります。
妊娠したくない場合のセックスの方法
妊娠を避けたい場合の方法とその避妊率について紹介します。
妊娠を避けたい場合、低用量ピルを使用すると避妊率が99%以上で、他の避妊方法よりも高いです。ただ、飲み忘れや正しい服用をしない場合は、高い避妊率は期待できません。また、避妊法は2つ以上を組み合わせるとより避妊率が上がります。(参考文献4)
日本では、コンドームは入手しやすいこともあり、避妊法として使用することが多いものです。でも、コンドームは破損することもあり、2〜8%が避妊に失敗することがあるというデータがあります。コンドームは、性感染症の予防には効果があるため、低用量ピルとの併用が奨励されています。(参考文献5)
「危険日を避けてセックスすること」や「膣外射精」は避妊方法ではありません。
排卵は予測できますが、確定するのは難しく、排卵がずれることもあります。排卵日だけ性交を避けても妊娠することがあります。なぜなら、精子や卵子の寿命は排卵の日だけではないからです。そのため、予想する排卵日の1〜2日前頃が一番妊娠しやすい時期とされています。しかし、そのあたりの日の性交を避けたとしても排卵がずれる可能性もあり、避妊するための方法としてはおすすめできません。
膣外射精は、射精前に精液が出てしまうこともあります。膣外射精で避妊をするには現実的に難しく、失敗する確率が高いとされています。
妊娠がストレスにならないように
希望して妊娠したとしても、つわりや体調不良などでストレスと受ける妊婦さんは多いものです。仕事や家事、上の子どもの育児などがある場合は、より辛い状態となる可能性があります。体調がすぐれないときには、赤ちゃんと一緒に休んでいると思って、母体が楽なように過ごせるのが理想的です。
望まない妊娠や予定外の妊娠であれば、なおのことストレスを感じるでしょう。
夫婦ともに、出産や育児について身体的、精神的、経済的な準備ができた上で、希望して妊娠できると一番よいと思います。
【参考文献】
1. 日本産科婦人科学会「女性の健康Q&A」
2. 内閣府「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」
3. 母体年齢と流産 周産期医学 vol. 21 no. 12, 1991‐12 「虎ノ門病院産婦人科 1989.1.~1991.7.データ 」
4. 産科婦人科学会「HUMAN+」
5. 厚生労働省研究班「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ・避妊」
※本記事は妊娠・健康・子育てに役立つ情報提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。
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