イタリアの待機児童問題、日本より深刻だった!イタリア保育園・幼稚園事情ルポ!
義務教育就学前の子どもを預け入れ出来ない待機児童問題。実は、イタリアでも重大な社会問題になっています。特効的な改善策を見出せず、ますます少子化が進む先進国。まさに日本と同じ状況なのです。そんなイタリアの待機児童問題をレポートします。
まず、イタリアの保育園・幼稚園の区分をご説明
イタリアには、
・Asilo nido ―― 3ヶ月~3歳未満
・Scuola materna またはScuola d’infanzia ―― 3~5歳
の2種類があります。便宜的に、Asilo nido を「保育園」、Scuola materna / d’infanzia を「幼稚園」と訳しますが、日本の区分とは異なるかと思います。
それぞれに公立と私立があり、公立の場合は国立、市立など。私立には教会付属の園や市の援助を受けた半公立の施設、企業内の預け入れ施設も含まれます。また保育園と幼稚園の一体型、つまり3ヵ月から5歳までを預かってくれる施設もあります(もちろん年齢ごとにクラスは別)。そしてイタリアでは現在、この保育園でも幼稚園でも、待機児童問題が日本を上回る深刻な状況なんです…。
”イタリア全土で幼稚園の緊急事態。保育園、幼稚園の児童受け入れ可能人数は史上最少に。”
これは、イタリアの有力新聞ラ・レプブリカのオンライン版(2013年5月21日)の報道。まさに全国レベルで問題になっているのです。
ローマも危機的状況だ。来シーズン(訳注:2013年9月入園期)への入園希望者は昨年より1000人増えて21,757人。うち、11.381人が入園できず、待機児童となる。入園児童数を超えている状態だ。
出典:m.repubblica.it
保育園・幼稚園の負担増額と少ない受け入れ数に対してデモをする母親たち。
ミラノでは、公立幼稚園の待機児童が652人、とある母親達の活動団体によると、翌年は1000人以上になるという。
出典:m.repubblica.it
フィレンツェでも、2700人の枠を用意出来たにも関わらず待機児童が増えている。
出典:m.repubblica.it
ちなみに、市立保育園の数は…
保育園全体のうち私立が58%、公立が42%、実際に公立保育園に入っている子どもの利用者数は該当年齢の子ども全体の12%弱で、19%は申請したのに入れない待機児童。これは、5人に1人が入園出来ないということです。
イタリアの待機児童増加の原因は?
2013年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)は1.39と、日本の1.43をも下回る少子化問題を抱えているイタリア。にも関わらず、待機児童が増加してしまっているのは何故でしょう?
1. 経営難 ― 市の拠出費の削減
政府の経費削減、拠出費カットのため、保育士のお給料が払えず施設設備も整えることが出来ないなど、公立幼稚園が経営難に陥り、やむを得ず私立化するところも。私立になったところで、高い保育園料を払える家庭はそうは多くなく、私立幼稚園でも閉鎖に追い込まれるところが多々あります。
2. 移民の増加
イタリアの抱える大きな社会問題のひとつ、移民問題。北アフリカ、東欧、東南アジア、南米から多くの移民が流れてきています。地域によっては、1クラスにイタリア人の子どもが3割、両親とも外国籍の子どもが7割、といった幼稚園もあるほどで、もちろん子どもたちは等しく幼稚園に入園する権利はあるわけですが、それでイタリア人の子どもが入園できる確率が減少するという由々しき状況になっています。
3. イタリア人中流家庭の貧困化
続く不況、失業、低賃金…これまで中流階級だった一般的なイタリア人家庭の貧困化が社会的問題となっています。これまで、子どもを私立の幼稚園に入れていた人たちも、経済的な余裕が無くなり、公立幼稚園に殺到するケースが増加しているのです。
入園申請手続きは?
入園申し込みは、半年前の2~3月頃に行われます。申請は、ローマでは数年前からインターネット経由のみ可能。願書には、両親の身分証明書や子どもの税務番号の証明書など、色々な書類もアップロードして添付しなければなりません。また、申請できるのは1園のみです。
入園は「点数方式」で順位付けされる!
選考は、点数方式。自己申請する点数で順位が決まるのです。例えば、両親共働きだとプラス10点、兄弟姉妹がいる子はプラス5点、入園希望の幼稚園の近隣地区に在住しているとプラス2点・・・と言うように加算されていき、点数の高い子が優先的に入園可能になります。シングルマザー、シングルファーザーの場合や両親または本人に身体的なしょう碍がある場合などは、一気に点数があがります。日本のように、面接や入試試験、健康診断のようなものはありません。また、くじ引きなどで選ばれる訳でもありません。ある意味とても合理的です。
この方式だと、専業主婦の方が不利なんです。就職したいから保育園・幼稚園を探すのに、共働き夫婦が優先されてしまうので、結局子どもを預けられず、仕事が出来ない…という悪循環も問題です。
選考に漏れても
5月の発表時に公立幼稚園の選考に漏れても、空きが出来れば順番に電話がかかってきます。年度半ばで転入してくる子もいます。また、翌年以降の選考に優位になることも。なので、1年目は私立、2年目から公立、という場合も多々あります。
しかし、公立の保育園・幼稚園には別の問題も
公立の場合、文房具はおろかトイレットペーパーを買うお金もなく、各クラスの親達がお金を出し合って用意する始末。建物が古く暖房や天井が壊れていても直せない、なんてことも!!
また、公立の場合、7月後半から9月半ばまで、丸々2ヶ月夏休みに入ってしまいます。2週間の冬休みや1週間の春休みもあります。もちろん親はそんなに会社を休めません。さらに困るのは、先生や食堂のおばさん達のストライキがちょくちょくあり、突然休園、なんてことが月に数回起きることもあるんです。そのため、金銭的に余裕がある人は私立を希望します。
私立の保育園・幼稚園も枠がない
公立保育園・幼稚園の申請結果が発表されるのは5月頃。一方で、こちらも数少ない私立も、早目に抑えておかないと枠が無くなってしまいます。早い人であればその年の1月には入学金を払うことも。最初から私立を希望する人ももちろんですが、公立に申し込む人でも、3月頃には私立を抑えておきます。どの私立でも、公立の結果発表まで待ってはくれないので、落ちた時の保険のために掛け捨ての入学金を払う必要があるのです。
公立vs私立保育園・幼稚園の費用と預入時間は?
イタリアの公立保育園・幼稚園は朝8時~最長午後5時まで。基本は無料です。月に給食代のみ支払います。給食代は、その家庭の年収によって、保育園は300~400ユーロ、幼稚園は20~80ユーロ(ローマ市の場合)です。後は、年間で50~80ユーロほどのアクティビティ費(演劇のレッスンだったり、英語のレッスンだったり、外部から先生を呼ぶ場合)などがかかります。
一方、私立幼稚園は朝7時~最長午後6時。費用は、大都市と地方、預け時間によって差はありますが、ローマでは夕方6時まで預けて月に基本400~500ユーロ(給食代含む)です。これは、一般的なフルタイム勤務の手取り月収の50%を超える場合もあります。また、インターナショナルスクールなどでは月600~700ユーロ以上のところもあります。さらに1ヶ月分の入学金、アクティビティ費などもかかります。フルタイム共働きで、子どもが1人ならいざ知らず、多くの家庭が私立幼稚園に通わせられるという訳ではありません。
ここにはまた別の問題点があります。お気づきと思いますが、公立保育園は、公立なのに給食代が400ユーロにも上る場合があり、これでは私立とほぼ同じ負担がかかることに。
入園出来なかったら…
ベビーシッター
頼れる肉親が近隣にいない場合は、ベビーシッターを頼むしかありません。しかしベビーシッター代は、1時間7~10ユーロが相場で、朝から晩まで頼むとなると日給を超えてしまいます。
今後の改善策
政府の働きかけ
イタリアでは、市立ではなく、州立にして運営費の拠出元を変えることで、受け入れ人数を増やすことができ、待機児童数を減らすことができた市もあります。また、半分私立化して、結局両親が自腹を切ることで枠が増えたというケースもあります。が、根本的な解決策ではないですよね。本格的に政府が国としてこの問題に取り組んでいるようには思えません・・・。イタリア全体が財政難で、経費削減のしわ寄せはいつも学校事業に来ているからです。
イタリアの待機児童問題は、移民問題や不況なども複雑にからまりあう現状で、容易に解消できる問題ではないのでしょう。しかし、少子化・高齢化が進む中、子育てがしやすい環境を少しでも整えて欲しいものです。