【歯科医師が解説】乳幼児期の「虫歯予防と口腔ケア」
乳幼児期の「虫歯予防と口腔ケア」について解説します。
この記事の解説・執筆担当医
門前仲町歯科・矯正歯科 吉田有智先生
東京歯科大学卒業
歯学博士
東京歯科大学口腔インプラント科非常勤講師
日本口腔インプラント学会認定医
日本口腔インプラント学会専門医
日本臨床歯周病学会会員
乳幼児期の「虫歯予防と口腔ケア」7つのポイント
・歯科疾患が大人や周囲からの細菌感染であることを理解する
・3歳までに健康的な口腔内細菌叢を作る
・主な感染経路になり得る両親がオーラルケアに注意し健康な口腔内を維持すること
・プラークを溜めないために細目に丁寧な歯磨きをすること
・有効な薬効成分を取り入れる
・乳歯の特徴を知り、定期受診を怠らない
・清掃補助用具(フロス)の併用
口腔ケアと予防はどうすればいい?
まず歯科疾患の特性について少し説明を致します。
虫歯や歯周病に代表される歯科疾患ですが、病態の多くが慢性疾患であり、進行は比較的緩徐で症状が現れにくく、自覚症状が出る頃には進行してしまっていることがほとんどです。またその大半が歯周病菌やう蝕菌(虫歯菌)による細菌感染症といった特徴を持っています。
つまり極論を言えば、細菌を持ち込まなければ、もしくは細菌が悪さをしない環境を作ればほとんどの歯科疾患には罹患しないということです。
3歳までに「口腔内細菌叢」を作ることが重要
そもそも成人の口腔内には約300種もの細菌が存在するといわれています。この中には歯周病菌やう蝕菌といった歯科疾患を引き起こす『悪玉菌』とそれを防ごうとする『善玉菌』が存在し、口腔内環境の維持を行っています。
この細菌同士のバランスを『口腔内細菌叢』と言い、お子様の細菌叢は乳歯が生え揃う約3歳までに完成すると考えられています。そして一度完成した細菌叢は容易には崩れないと言われています。
つまり3歳までに虫歯になりづらい口腔内細菌叢を獲得することが重要となってきます。
虫歯予防は何歳から?
それでは何歳から虫歯予防を意識すれば良いのでしょうか。実は生まれたての赤ちゃんの口の中には虫歯菌はいません。
虫歯の原因菌であるミュータンスレンサ球菌は歯の表面上にしか存在できないことが知られており、歯が生えるまでは口腔内に存在することができないからです。ちなみに生後6~8カ月で最初に前歯が生え始めます。
つまりこの時期以降にう蝕菌がお子様の口腔内に持ち込まれると、虫歯になりやすくなってしまうということです。
感染経路は周囲の大人
そうなると次に気になってくるのは感染経路です。
これまで多くの研究で、親と子の間で口腔内細菌バランスが相関することが報告されおり、生活を共にする周囲の大人の口腔から幼児の口腔内に移され感染することが明らかになっています。
具体的な例として親からお箸やスプーンを用いたお子様への食べ移しが挙げられます。こういった日常の何気ない行動も歯科疾患の特性を理解していれば、食事をそれぞれ取り分けることや、食べ与える時にも食器はお子様用のものを別に用意するなどといった方法で感染のリスクを防ぐことが出来るのです。
虫歯ができるメカニズム
歯科疾患が細菌によるものと伝えましたが、ではその細菌はどのようにして虫歯を作るのでしょうか。
ミュータンス菌だけでは、虫歯はできない
虫歯とは原因菌であるミュータンス菌が産生した酸によって歯が溶かされることを指します。
ただしひとりでに酸を産生するのではなく歯についた食べかすや磨き残しにミュータンス菌が生着し、糖を分解してプラーク(歯垢)を作ります。そしてバイオフィルムという膜を作り、歯に強力にこびり付くのです。さらにそこから糖を発酵させ酸を産生するという仕組みです。バイオフィルムが出来てしまうと歯磨きだけでは取れにくくなったり、歯磨き粉などの薬効成分が歯に浸透するのを妨害していまいます。
結果、より虫歯になりやすい環境となってしまうのです。
子どもの口腔ケアで大切なのは?
歯の表面にプラークを溜めないこと、すなわち細目で丁寧な歯磨きが、子供の口腔ケアで最も重要となります。その前提で、プラスαとして歯磨き粉に含まれる薬効成分が有効となります。虫歯予防に有効な成分として代表的なものがフッ素です。
虫歯予防にフッ素が有効である理由
フッ素には虫歯になりかけた初期の歯を元に戻す作用(再石灰化作用)を促進効果や虫歯菌の酸産生抑制や歯質強化作用があります。
フッ素濃度が1000pm以上のものがより有効とされていますが過剰摂取による危険性も少なからずありますので、年齢に合わせたフッ素濃度の歯磨き粉を選ぶことが重要です。
かかりつけの歯科医師、歯科衛生士に相談して選ぶことをお勧めします。
キシリトールも有効!
フッ素以外ではキシリトールも有効です。キシリトールは、虫歯菌の抑制効果と酸性に傾いた口腔内をアルカリ性に戻す効果やフッ素と同様に再石灰促進効果があります。
これら虫歯予防に有効な成分を知り、日常に取り入れのもお子様の口腔ケアに役立つでしょう。
乳歯の特徴も理解しよう
乳歯の特徴と虫歯の好発部位を知っておくこともお子様の口腔ケアにおいて重要です。
乳歯は永久歯よりも歯質が弱く厚みも薄いため虫歯の進行が早いのです。そのため早期発見が大切ですので怪しいと思ったら早めに歯科受診をすること、定期検診が重要となります。
デンタルフロスの併用も
乳歯の奥歯においては溝の形態が複雑で細かく、汚れが溜まりやすい形をしています。虫歯になる前にシーラントとよばれるフッ素を含んだ樹脂を溝に流し込み、形態を単純化することで虫歯リスクを下げる方法(予防充填)も有効です。
さらに奥歯が生え揃う4~5歳ごろからは奥歯同士が接しあう面(隣接面)の虫歯もできやすくなるのでデンタルフロスの併用も重要となってきます。
「歯の後悔」を子どもたちにさせないために
近年、日本人の歯列矯正や口腔衛生への意識が高まってきているように思います。
特にお子様に対しての口腔ケアや歯列矯正が著明です。0歳児のお子様を連れて予防処置の相談にお見えになられる保護者の方も珍しくありません。
受診の動機を尋ねると、『自分が虫歯で今まで苦労したから』『自分が歯並びでコンプレックスを持っていた』『周りの子供たちが矯正をしている』といった声が大半を占めています。つまり、今の子育て世代の方々が幼少の頃には予防の意識や歯列矯正が身近ではなかった反面、同様の後悔を子どもにさせたくないという思いの表れなのです。
裏返せば、あらゆる世代で早期の予防処置や歯列矯正によって多くの歯科疾患トラブルを回避できるという認識が広まっていることを意味しています。この認識が更に浸透していけば20年後、30年後には世代ごとの残存歯数は少しずつ伸びていくことでしょう。