目次
この記事の監修助産師
河井 恵美 先生
看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等に勤務、25年以上助産師を務める。
青年海外協力隊でアフリカに赴任、国際保健医療を学ぶために大学院に進学、修了。
お母さん方へのアドバイスを充実させたいと思い、保育士資格も取得。
現在、シンガポールに住み2人の子どもを育てつつ、現地の産婦人科に勤務して日本人の妊産婦さん方に携わる。
インターネットにてエミリオット助産院を開設中。
胎嚢(たいのう)とは?
胎嚢とは、赤ちゃんが入っている袋のことをいいます。
「妊娠したかもしれない」と思って産婦人科を受診すると、たいていは超音波検査を行います。妊娠してしていると、グレーの画像の中に胎嚢が黒く映ります。
胎芽とは、胎児と呼ばれるの前の段階にある赤ちゃんのことです。
胎芽期とは、妊娠8週未満とする説と10週未満とする説があり、はっきりとは決まっていません。(参考文献1)
胎嚢の中に白く見えます。
胎嚢と胎芽を確認できる時期
胎嚢が確認できる時期は、一般的に妊娠4週後半〜5週前半頃といわれています。
胎嚢が見えるはずの週数なのに見えないこともあります。
最後の月経(生理)から数えて妊娠5週目に入っていても、排卵のズレなどから胎嚢が見えなかったり、見えても小さかったりすることがあります。
お母さんとしてはとても気になるものですが、様子をみて再度受診して超音波検査を行うことが多いです。
胎嚢は、一般的に6週頃に1.5cm、8週で3.0cmとだんだん大きくなっていきます。(参考文献1)
形は、楕円だったり茄子のように長かったりと色々な形で見えます。
妊娠6週頃に胎芽といって、胎児に成長していくもとが見えてきます。
胎芽はだんだんと大きくなり、超音波検査を行うと白くはっきりと見えてます。
胎嚢が小さい、大きくなっていないという場合には、流産も考えられます。
しかし、胎嚢の大きさだけでは決められないため、胎芽期であれば妊娠6週頃に心拍動が見えるかどうかを確認します。
妊娠7週までにこの心拍動が確認されない場合は、流産と診断されます。(参考文献1)
胎嚢の形は、超音波の当て方によって見える形が違うため、どのような形が良くないとは一概にはいえません。
胎嚢と胎芽の⼤きさ
妊娠4週後半から5週前半に超音波検査すると、全体がグレーの画像の中に、円形や楕円形の小さな黒いものが映ります。
黒い円の周りがなんとなく白くなっていることがあります。胎嚢が小さいとわかりにくいですが、胎盤のもととなる部分にあたります。
妊娠5週頃になると、胎嚢は約1cmほどになっています。(参考文献1)
黒い胎嚢の中に白い円が見えるようになります。この円は卵黄嚢といって、赤ちゃんに送る栄養を含んでいます。
妊娠5週初期では、まだ超音波検査の画像では赤ちゃん(胎芽)が見えていないことが多いです。
妊娠5週後半になると、赤ちゃんが見え始めてきます。
胎嚢は1.5cmほどになり、胎嚢の中の白っぽい円も大きくはっきりと見えるようになります。(参考文献1)
その近くに白く見えるのが赤ちゃん(胎芽)で、まるで宝石(赤ちゃん)のついた指輪(卵黄嚢)のように見えます。
この頃に赤ちゃんの心拍が確認できるようになります。
画像では、宝石部分がチカチカと点滅しているように見えます。医師から「ここが赤ちゃんの心臓で、動いていますよ」と説明され、感動の瞬間です。
妊娠7週になると、さらに胎嚢は3cm近くまで大きくなり、白い円と赤ちゃんが離れたように見えてきます。
赤ちゃんの大きさは、約1cmほどになっていて(参考文献1)、超音波の画像でもわかりやすくなっています。
胎嚢や心拍が確認できない原因、小さい、形が悪い場合
胎嚢や胎芽が確認できない原因としては、下記のことが考えられます。
① 受診の時期が早すぎる
超音波検査で胎嚢や胎芽が見えない場合、受診の時期が早すぎることがあります。
現在の妊娠検査薬は性能が良く、予定生理の頃から使用できるものがあります。
妊娠検査薬で妊娠の判定が出ても時期が早すぎる場合は、超音波検査では何も見えないことがあります。
② 化学流産の可能性
妊娠検査薬で妊娠の反応が出ても、胎嚢が確認されず予定の生理が始まることを化学流産と呼びます。
受精卵が着床して、hCG(ヒト絨毛正ゴナドトロピン)は分泌されるので、妊娠検査薬が陽性の反応を示します。
妊娠を気にしていない場合、生理が普通に来たと思ってしまうことがあります。この化学流産は、流産の回数には入りません。
③子宮外妊娠
受精卵が子宮以外の場所に着床することを子宮外妊娠といいます。
この場合、子宮内には胎嚢が確認できません。
卵管に着床することが多く、そのままにしているとだんだんと受精卵が大きくなって卵管が破裂するリスクがあり、母体は危険な状態となります。
妊娠6週以降に赤ちゃんの心拍が確認できれば、ひと安心しますね。
でも、だからといって今後も順調に経過するとは限りません。妊娠と診断されたうち、約15%が流産となります。
妊娠12週未満の早い時期での流産が80%以上とされています。(参考文献1)
その場合、赤ちゃん自体の染色体等の異常によるものが最も多く、母体の生活上の問題で流産になることはほとんどありません。(参考文献3)
心拍が確認できないとき、1週間後にもう一度超音波検査を行うことが多いです。
正確な排卵や受精の時期をモニタリングしているのでなければ、正確な妊娠週数を決めるのは難しいからです。
胎嚢が週数に比較して小さい場合にも再度超音波検査を行うことが多いです。
超音波プローブの当て方によって胎嚢の断面が違うため、丸く見えたり細長く見えたりします。
胎嚢の形が悪いだけでは流産とは限りません。
また、流産では、胎嚢の変形があるケースや胎嚢の変形がなく、形が丸く見えても発育がないケースもあります。(参考文献4)
医師も流産は慎重に診断しますので、気になることは質問してみましょう。
妊娠初期に心がけておくこと
妊娠初期には、出血や腹痛には注意しましょう。
特に赤い出血がある場合、出血と腹痛が同時にある場合は受診をおすすめします。
茶色い出血は、出血後に時間がたって酸化しているため、急を要するわけではありませんが、その後に続くかどうかを確認しましょう。
生理の2日目よりも多い出血、塊が出たなどの場合は受診しましょう。
妊娠5〜12週までは、主な器官期間が形成される時期で「器官形成期」といいます。
この時期に薬を飲むと、赤ちゃんの発育に影響を与えるとされ、先天異常を起こしやすくなります。
妊娠中に使用できる薬はたくさんありますが、この時期には薬を飲んでも良いかどうか医師に確認しましょう。
タバコに含まれているニコチンには、血管を収縮させる働きがあり、赤ちゃんへ酸素を送っている臍帯の血管も収縮させてしまいます。
その結果、赤ちゃんへの酸素の供給が少なくなり、成長に影響を与えます。
母体本人がタバコを吸うことと同様に、配偶者や同居している家族が吸うタバコの副流煙も問題となります。
また、妊娠中の過度な飲酒は、赤ちゃんに低体重や顔面を中心とした奇形などが生じる胎児性アルコール症候群となる可能性があります。
最近では、胎児性アルコール・スペクトラムと呼ばれているADHD(注意欠如・多動症)や成人後の依存症のリスクがあり、広い範囲での影響があるとされています。(参考文献5)
どの妊娠期間でもタバコとお酒はやめておきましょう。
レントゲン検査を受けるときには、医師や放射線技師に必ず妊娠していることを伝えましょう。
胸部のレントゲン撮影では、平均の線量は0.01mGy(最大でも0.01mGy以下)、腹部のCT検査でも線量は8.0mGy(最大49mGy)です。
妊娠初期に100m〜200Gy以上の放射線を浴びた場合、流産や奇形のリスクがあるとされています。(参考文献6)
通常のレントゲン撮影では、胎児に影響を及ぼすほどの危険はありませんが、できれば避けたいものですね。
レントゲンを撮影するメリットとデメリットを考慮する必要があるため、医師と相談しましょう。
体調の変化やつわりによって、注意力や判断力が鈍くなることもあるため、車や自転車の運転はできるだけやめたほうが良いでしょう。
どうしても運転しなければならないときには、体調が良いときにする、ゆっくりと進むなど無理をしないようできるといいですね。
妊娠初期だけでなく、妊娠全期間を通して感染症には注意したいものです。
妊娠中に特に気をつけたいのは、風疹、トキソプラズマ、サイトメガロウィルス、りんご病(伝染性紅斑)、リステリア菌などです。(参考文献1)
① 風疹
風疹は、30〜50代の男性は風疹のワクチンを受けていない世代で、感染源となりうることからワクチン接種を積極的に勧めています。
妊娠中は、風疹のワクチンを打つことができないため、周囲の人から予防してもらうことが重要です。
妊婦が風疹にかかると、赤ちゃんの難聴や白内障などを引き起こすことがあります。
② トキソプラズマ
トキソプラズマは原虫で、火が十分に通っていない肉、土や動物の糞尿に潜んでいます。
妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合、赤ちゃんの脳や肝臓などに影響を及ぼす可能性があります。
そのため、妊娠初期には多くの産院で抗体があるかどうかを調べています。
③ サイトメガロウィルス
サイトメガロウィルスは、体液(鼻汁、尿、便など)にいることがあります。
妊娠中にサイトメガロウィルスに初めて感染した場合が問題になりますので、抗体があるかどうか多くの産院で妊娠初期に調べています。
抗体がない、または抗体があるかどうかわからない場合は、子どものおむつ交換、子どもへの食事、鼻やよだれを拭くなどのあとには手洗いをこまめにするようにしましょう。
④ りんご病(伝染性紅斑)
りんご病は、子どもに感染することが多い病気ですが、大人もかかることがあります。
妊娠中に感染すると、赤ちゃんが貧血になることがあったり、胎児死亡に至ることがあります。
妊娠中は、子どもが多く集まる場所に行かないようにすることも考慮に入れましょう。
⑤ リステリア菌
リステリア菌は、食中毒を起こす菌です。火が十分に通っていない肉やチーズなどから感染します。
妊娠中は抵抗力が弱っているため、生ものをできるだけ食べないようにするといいですね。
赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスク低減のために、妊娠する1か月以上前〜妊娠初期(12週頃)にかけては、葉酸を積極的に摂取することが大切です。
通常の食品以外にサプリメントなどで葉酸を400µg/日摂取することが奨励されています。
サプリメントからの摂取は上限900〜1000μg/日です。
葉酸は食品からの葉酸の吸収率が低く、サプリメントからの葉酸の吸収は比較的良いとされ、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクの低減に効果的だとされています。(参考文献7)
葉酸は、妊娠初期だけでなく、妊娠期間を通して貧血の改善にも役立ちます。(参考文献7・8)
食品からの吸収が低くても、普段の食事から葉酸を積極的に摂ることは重要です。
葉酸が豊富に含まれている食品を表にまとめました。
枝豆は冷凍でも栄養が損なわれにくく、手軽に料理に取り入れることができます。また、ドライマンゴーは、おやつにもいいですね。
妊娠初期は、つわりの症状が出てくることもあり、食事が進まないことも多いでしょう。
肉や魚などの食材を無理して食べなくても大丈夫です。赤ちゃんはまだ小さいため、たくさんの栄養を必要としていません。
足りない栄養は母体の蓄えから赤ちゃんへ送られます。
だるさや眠気、やる気が起きないなどもつわりの一種といわれています。
赤ちゃんと一緒に休んでいると思って、無理のないように過ごしましょう。
胎嚢確認後の流産について
胎嚢が確認された後に出血をすることもあります。
原因は、流産、絨毛膜下血腫などが考えられます。妊娠初期に出血が起こった場合、かかりつけの医師に相談しましょう。
胎嚢が確認されるのは5週前後です。
妊娠12週未満では、全流産の80%がこの時期時に起こるとされていることから、胎嚢が確認できていても流産の可能性は否定できません。(参考文献1)
妊娠12週未満の流産の原因の多くは、赤ちゃん側の因子で起こるといわれていて、その中では染色体異常が一番多いとされています。
その他、多胎妊娠(双子など)も原因の一つと考えられています。
そのため、母体の活動、仕事などによって流産が引き越されることはほとんどないといえます。
流産は、母親が努力しても避けられないということを周囲の人の理解することが必要です。
流産の多くは妊娠12週未満の早期に起こることが多く、赤ちゃん側の原因がほとんどです。そのため予防することは難しいとされています。
でも、何度も流産する場合や12週以降の流産の場合は、適切な治療を受けると予防できることがあります。
まずは、産婦人科医に相談してみましょう。
※本記事は妊娠・健康・子育てに役立つ情報提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合には、ご自身の判断により適切な医療機関を受診し、医師にご相談ください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当サイトは責任を負いかねます。
関連記事
参考文献
1. メディックメディア「病気が見える Vol.10 産科 第3版」
4. メジカルビュー社「プリンシプル 産科婦人科学2 産科編」