溶けた骨の再生に役立つ専門医に聞く重度の歯周病治療再生療法とは
歯を支える顎の骨が溶けてしまう恐れがある「歯周病」。実に日本の成人の約8割が、この歯周病にかかっている言われています。一方で、歯周病はサイレントディジーズ(Silent Disease:静かなる病気)とも呼ばれるほど、知らず知らずのうちに進行してしまい、気がつけば深刻な歯周病になっていた……というケースも。
今回Ha・no・ne編集部(インタビュアー:リン)は、さいたま市浦和にある「たぼ歯科医院」で2回にわたって取材へ。
インタビュー第1弾は院長・多保学先生にお話を伺いました。
歯周病専門医・指導医である多保先生は、各専門医と連携しながら、重度の歯周病の治療法である「再生療法」を取り入れています。
本インタビューでは多保先生に、「重度の歯周病とはどのような状態なの?」「再生療法で本当に骨が再生できるの?」といった率直な疑問をぶつけました。
歯のグラグラや、歯茎が下がるといった気になる症状がある方は、ぜひご一読ください!
溶けた骨を再生できる⁉︎重度の歯周病の救世主「再生療法」とは
歯茎が下がる・歯がグラグラ…重度の歯周病のサインを見逃さない
Ha・no・ne編集部 リン(以下リン)
歯周病は軽度のものから中軽度・重度と、大きく分けて3種類あると耳にします。この中で「重度の歯周病」とは、具体的にはどのような状態なのでしょうか。
たぼ歯科医院 院長 多保学先生(以下多保先生)
分かりやすいのは、歯茎が下がり、歯がグラグラする状態です。これは歯が埋まっている顎の骨(歯槽骨)が溶かされている状態なので、歯が支えられず、どんどん動いてしまうわけです。
ただ、喫煙者の場合は症状が出にくいというケースがあり、見かけ上普通の歯茎のようでも、中身はボロボロ……というリスクもあります。
リン
見た目ではあまり分からない場合もあるのですね……。
ちなみに、どれくらいの期間をかけて、歯周病は軽度から重度に進行するのでしょうか?
しばらく定期検診に通えていない間に、歯周病が進行しているパターンもあり得るのでしょうか。
多保先生
進行スピードは、歯周病のタイプによって異なります。
ただ、3ヶ月で一気に骨がなくなるということはなく、何らかの兆候はあるはず。そこに気がつかずに進行するケースは多いです。
「虫歯がないから何十年も歯医者に行ったことがない」とか、そういう人こそ要注意。
虫歯が少ない人でも実は歯周病菌の数が多く、また虫歯菌の数が多い人は歯周病菌の数が少ないというパターンもありえます。
リン
人それぞれお口の状態は異なるのですね。
多保先生
はい、全く異なります。
重度の歯周病の治療法「再生療法」とは
リン
重度の歯周病の治療法の1つに骨の「再生療法」がありますが、骨が再生できるのでしょうか?
多保先生
再生できるかどうかは患者さんの状態によって異なります。
たとえば、骨のラインが全体的に下がっている状態は厳しいです。
そうではなく、部分的な欠損で、全体としての形がよければ、再生できる可能性は高まります。
リン
重度の歯周病から再生療法をした場合、治療期間は大体どのくらいでしょうか。
多保先生
手術が必要な箇所の数などによって差がありますが、短い人で1年ほどです。
たとえば一箇所のみでしたら、初期治療に3〜4か月、そのあと手術という流れなので、トータルで考えると、おおよそ1年くらいでしょう。
リン
再生療法を終えられたのち、再発してこられる方は多いですか?
多保先生
どれだけ患者教育ができているかによります。
重度の人ほど僕らが教育するので、再発はそこまで多くないと思います。重度の治療になると、時間とお金がかかるんです。
動いてしまった歯の矯正や失った歯をインプラント治療で治したりすると、長いと5年、高級外車が買えるほどの費用がかかることもあります。
だから患者さん自身も危機感を持たれるんですね。
リン
5年も!確かにそこまで苦労して治療すれば「この状態を維持したい」と感じますね。
重度の歯周病治療は専門医に任せてほしい
リン
多保先生は歯周病専門医・指導医でいらっしゃいます。
実際のところ、一般的な歯科医院で重度の歯周病を診てもらうのと、専門医がいる歯科医院で診てもらうのとではどのような違いがあるのでしょうか?
多保先生
歯周病学的知識があまりない先生に診てもらっていて、気づかずに進行している恐れがあるため、私は専門医がいるところがいいと思います。
たとえば、うちでは歯周病進行度合いを予測するソフトを導入しています。そのソフトを元に、大体何年スパンで歯周病が進行する可能性があるのか、その人のリスク因子(喫煙・生活習慣など)もあわせて見ていきます。
リン
患者さんそれぞれの背景に合わせて、治療やメンテナンスを行うのですね。
歯周病治療は「チームプレー」がカギ
リン
重度の歯周病を治すには、大学病院に行った方がいいと言われることもあります。
大学病院と専門医のいる開業医とでは、何か差があるのでしょうか。
多保先生
大学病院だとさまざまな科があるのでチーム医療はやりすいでしょうね。
ただ、あくまでも大学は学生や研修医の教育がメイン。担当医の技量差はどうしても発生します。
一方、開業医でも、各治療の専門医と連携できる体制が整っているところもあります。うちの場合がそうです。
あとは1人ひとりの患者さんに対して、どれだけ真剣に向き合ってくれるか。
僕の場合、「患者さんが自分の家族だったらどうしたいか」を常に考えます。時には厳しいこともお伝えするのですが、そこは歯科衛生士たちが優しくカバーしてくれます。
リン
歯科衛生士さんも重要なポジションなのですね。
多保先生
そうです。歯科のチーム医療の中で、彼らは必須の存在です。
僕ら治療部隊がいて、そのあと患者さんに寄り添ってくれる部隊がいないと。
歯周病の治療ではとくに、メンテナンスやセルフケアが大切ですから、そこを担う衛生士は非常に重要です。
リン
歯科衛生士さんも含めたチームプレーなのですね。
多保先生、この度は勉強になるお話をありがとうございました!
多保先生への取材を通して、「歯周病かも?」と気がついた時には進行している可能性があることがわかりましたね。
もし、いま歯茎の下がり具合や歯のぐらつきが気になる方がいれば、迷わず専門医を受診することを提案したいです。
また、歯周病治療は各種専門医や歯科衛生士とのチームプレーが不可欠。
たぼ歯科医院でも、衛生士によるメンテナンスや患者教育に力を入れています。
そこで次回のインタビュー第2弾では、たぼ歯科医院の歯科衛生士・工藤百夏さんに、セルフメンテナンスの重要性についてお話を伺います!
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