ジャンニ・ロダーリ(1920 – 1980)は、イタリアを代表する児童文学作家。多数の名作を書き残し、その多くの短編・長編が日本語にも訳されています。
しかしロダーリは、作家としてだけでなく、教師の経験もあり、児童教育&心理学の専門家としても大きな功績を残しています。それは、「お話作り」の楽しさと面白さを子どもたちにはもちろん、その親である大人たちを含めた多くの人々に広めたこと。そして、子どもたちの想像力や空想力、創造力を自由に羽ばたかせられるような教育の大切さを説いたことです。
ロダーリの考える児童教育と創作の関係・・・
ロダーリの児童教育に対する考え方は、さまざまな著書でも示されています。
子どもの反対側に立つのでも、子どもの頭越しに事をするのでもなく、子どもが必要とするもの、子どもの関心、生活に対する子どもの愛情、現実に対する子どもの緊張を見逃さないこと - 『ファンタジーの文法』(1978年窪田富男訳)より
これは、戦後に盛んになったレッジョ・エミリア地域の児童教育活動に実際に関わることで実践され、発展していきました。
レッジョ・エミリアはアートの教育と言われるけれど、広い意味でのアートであることはもちろんそうだけれど、1960年代にレッジョ・エミリアがジャンニ・ロダーリを中心にして一番発達したとき、中心は絵本の読み聞かせ、演劇、文学教育だった。
出典:ameblo.jp
そして講演活動やジャーナリストとしてのさまざまな連載を通して、教育に関わる人々、ひいては大人全体に「創作の大切さ」を広めました。
そんなロダーリが大人たちに贈る、お話作りのヒントが詰まった著書たち
『両親のためのジャーナル(Il Giornale dei Genitori)』に連載したエッセーをまとめた書籍。パパやママのためのお話づくりの秘訣がぎっしり詰まっています。
夜、布団に入る前の本の読み聞かせも楽しいですが、子どもと一緒にオリジナルのお話を考えるのもとても楽しいです。難しいことは何もありません、お話作りのきっかけやヒントが満載で目からうろこという感じです。お話を作ってあげる予定がなくても、子どもと接するってどういうことか教えてくれます。
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同時代に起こった児童教育改革であるレッジョ・エミリア教育の人々が、ロダーリに講演会を依頼し、その内容をまとめた一冊です。優れたファンタジー論であるとともに、変革の時代を背景にした教育論と評されています。
物語はどこにでもある。眠っているだけ。目覚めさせるには「ファンタジー」を働かせればよい。でも、どうやって?著者はそのための数々の「技術」を治開する。それは同時に現代の教育に対する不信の表明であり、子どもたちの想像力を培い創造力を育むことこそ、これからの社会を作り出していくための必要条件であることを訴えている。
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「ファンタジーの二項式」、「もし・・・なら、どうなるだろう」、「ごまかしのなぞなぞ」、「おとぎ話のサラダ」など、項目ごとにひとつずつ具体的に物語作りのコツが分析、解説されています。イタリア語を基にしているので、難しく感じるかもしれませんが、日本語(ひらがなやかたかな)に置き換えてみれば、活用できるワザがいっぱい。子どもたちと一緒にお話作りに挑戦してみましょう!
冒頭の「この本とのつきあい方」にはこうあります。
みなさん、わたしが物語をとちゅうまでつくります。みなさんがそのあとをつづけて、物語のフィナーレ(しめくくり)をつくってください。この本には二十の物語がおさめてありますが、わたしの話を聞いて、子どもたちがつくったフィナーレを一話につき三つずつのせておきました。
出典:short-short.blog.so-net.ne.jp
残念ながら、こちらの本は古いため探すのが難しいかもしれません。しかし、同じ趣旨でまとめられたもう1冊の本が邦訳されています。
色々な昔話、童話で読んだことがあるような短編が20話まとめられている本。しかし、それぞれの3つずつの結末が用意されているのがユニークなところ。どれを選ぶかは読者の自由で、さらにそこから自分で好きなストーリーを展開しても良いのです。最後には作者ロダーリの考え方も追記されていて、こんな風に考えることもできるんだ、と世界が広がります。
この本は、書かれているものだけしか読み取れない人にはつまらないけれど、自分で物語を膨らますことができる読者には、すごく楽しめる作品 (訳者の関口英子氏の言葉)
出典:www.kotensinyaku.jp
児童教育の現場だけでなく、家庭でもぜひ!
ここにご紹介した著作たちは、いわゆる物語制作のノウハウ本ではありません。もちろん、具体的なヒントもたくさん挙げられているので、ひとつずつ試しながら子どもたちとお話作りを楽しむことができます。でも、一番大切なのは、子どもの考える力を自由に伸ばしてあげるための親としてのあり方、に気付かされるという点。児童教育という専門的な分野だけでなく、日常生活での子どもとの接し方についても考えさせられます。ロダーリの理念に触れていれば、つい子どもの間違いを訂正しそうになるとき、少しだけ違うリアクションを取れるかも。ぜひご一読ください。