戦争を知らない大人から今の子どもたちへ。どんなメッセージを伝えるべきか・伝えられるのか・・・答えが出ない・・・
2022年2月24日に、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が開始。民間人の被害も拡大し、現状まだ戦闘が続いています。
ヨーロッパのただ中での戦争勃発に背筋が凍る
2022年2月24日に、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が開始。2週間以上経った今も民間人を含む被害が拡大し、現状まだ戦闘が続いています。
侵攻後、ウクライナ国民を中心とした多数の難民が隣国などへ避難しており、2022年3月11日現在、250万人に達した
出典:ja.m.wikipedia.org
語弊があるかもしれませんが、これまでは日本人である私にとっても、今暮らしているイタリアの周囲の知人友人にとっても、アフリカや中東の紛争などは、残念ながら現実的にはほとんど遠い国の話でした。どこで起きていても戦争や虐殺を見て見ぬふりしていい訳では決してないし、難民だって今に始まったことではないし、白い肌のウクライナ人が被害に遭う場合だけ同情心や共感が高まるのは人種差別であり公平でない、という批判や指摘もよく分かります。私もそれは本当にそうだと思います。
でも実際のところ、自分たちの親も自分たち自身も、戦争を知らない世代です。辛うじて祖父母の子どもの頃の話や授業で習ったくらいです。それが、このヨーロッパの真ん中で、文化や習慣も近しい人々の間で、地域的な銃撃戦にとどまらない、一般市民を標的にした空襲も行われる規模の「戦争」が始まってしまったのです。ほとんどの人が勝手ながら「他人事ではない」混乱と恐怖と不安に苛まれ、被害を伝えるニュースに心を痛めています。
イタリアでも避難民を受け入れ
イタリアには、ヨーロッパ最大のウクライナ人コミュニティがあるそうです。ここ数日で続々到着するウクライナからの避難民の方々。もともとイタリアに移民していたウクライナ人の親戚縁者を頼って来る方はもちろん、着の身着のままで行く宛てが無い方々まで。
3月12日時点の内務省の発表では、34,851人のウクライナからの避難民がイタリアに入国しているそうです。そのうち未成年は14,126人にも登ります。
Sono 34.851 i profughi entrati in Italia dall'inizio del conflitto in Ucraina: 17.685 donne, 3.040 uomini e 14.126 minori.
出典:tg24.sky.it
イタリアの主要都市では市庁舎にウクライナ避難民対応のタスクフォースが設置され、募金集めや物資の救援、避難民の受け入れ先の割り当てまで、多数の教会や非営利団体と協力して活動に当たっています。
小学校のクラスみんなで描いた戦争反対&平和希求の絵
戦禍を逃れてくる子どもたち・未成年にはもちろん就学の権利があり、そういう生活面でのケアもして行かなければなりません。もしかしたら自分の子どもたちのクラスや同じ小学校に転入してくるかもしれません。
一方で、息子のクラスには、イタリア人パパとロシア人ママのお家の子がいます。我が家と同じように、普通の国際結婚の一般家庭の子です。当然のことながら、彼らにはもちろんロシア軍の侵攻の責任などありません。ウクライナの人々を守り支援するあまりに、ロシア人という括りでヘイトが高まったり、逆にいじめになったりしてしまうような事があっては、これも絶対にいけないと思います。
先日、長男のクラスではみんなでこんな絵を描いたそうです。先生が写真を送ってくれました。
NO ALLA GUERRA = NO TO THE WAR
SI ALLA PACE = YES TO THE PEACE
と言う意味です。
戦争を知らない大人世代がどうやって伝えられるのか
子どもたちは、ウクライナ侵攻が始まってしまった今だって銃撃ゲームや戦い合うテレビドラマなどのエンタメを楽しんでいて、現実と架空の世界との区別、作り物とニュースの映像との区別がついていないんじゃないか、という懸念もあります。
そんな中で、本当の戦争の怖さ、恐ろしさ、これはどんなことがあっても間違っていることなんだと、どうやったら子どもたちに伝えられるのでしょうか。どうすれば、避難してくる子どもたちもイタリア在住のロシア人の子どもたちも、もしかしてこれからロシア国内で経済難により苦境に陥らざるを得ない一般家庭の子どもたちも、みんなが手を取り合って助け合えるようになるのでしょうか。
政治的・歴史的な国同士の問題や経済金融の問題は、私だって複雑過ぎて説明出来ないし、どんなことであれ、人を殺す戦争の大義になってはいけないはず。でも正直、被害状況を伝える恐ろしい映像を延々と見せて説明するのが良いのかだって分かりません。
知人友人の中には、ニュースを子どもたちと見られなくなったという人もいます。
戦争を伝えるニュースの最後に朗読された児童文学作家の詩
そんな時、テレビニュースの最後に、とある詩が朗読されました。
Chissà se la luna
出典:www.sololibri.net
di Kiev
è bella
come la luna di Roma,
chissà se è la stessa
o soltanto sua sorella…
“Ma son sempre quella!
– la luna protesta –
non sono mica
un berretto da notte
sulla tua testa!
Viaggiando quassù
faccio lume a tutti quanti,
dall’India al Perù,
dal Tevere al Mar Morto,
e i miei raggi viaggiano
senza passaporto."
作者はジャンニ・ロダーリ。1980年に亡くなった、イタリアの児童文学作家、反戦作家、教育者兼ジャーナリストです。これは『Filastrocche in cielo e in terra』 (Einaudi社) に収められた「La luna di Kiev (キエフの月)」という詩で1960年に発表会されたもの。翻訳してみました。
キエフの月は
ローマの月と同じくらい
きれいなのかな
おんなじなのかな
それとも姉妹なのかな…
「私はいつだってこの月よ!
ー 月が言い返します ー
私はあなたの頭の上の夜用ベレー帽じゃないんだから!
この上空を巡りながら
みんなに光を届けるの
インドからペルー、
テヴェレ川から死海まで
私の光は
旅をするの
パスポートなんてなくてもね」
現状どうにも出来ない悲しみ、自分が何も出来ない怒り、子どもへどう説明したらいいのか分からない中で、凄惨な映像の後に優しい声音で朗読されたこの詩。戦争のことなど書かれておらず、月を通して伝えられる平和の尊さに心が揺さぶられました。
結局、寄付をするくらいしか出来ることはないですが、子どもたちには正直に思うことを伝える努力を続けたいです。